今季のSUBARU陸上部の最大級のニュースは、森田佳祐(もりた・けいすけ)選手の加入です。
1500mで日本歴代7位
森田選手は1500mの、日本トップクラスのランナー。 5月に前チームからSUBARUに移籍しました。
猛烈なラストスパートを武器に、移籍後すぐにあった6月の日本選手権1500mで3位となって、SUBARU陸上競技部で初めて表彰台に上がる快挙を成し遂げます。 さらに、7月のホクレンディスタンス1500mで自己記録を2秒更新する3分37秒36、日本歴代7位の記録をたたき出しました。
「いずれも予想通りの結果。昨年から順調に練習できていたので、これくらいは出ると思っていました。欲を言えばもう1秒、縮めたかった」。
目標は、2023年ブダペスト世界陸上、2024年パリ五輪に1500m日本代表として出場することです。
レース中も、頭はフル回転
森田選手、なぜこんなに強いのでしょうか。
本人は、「いつも考え抜いているから」と言います。
「いろんな人から、レース展開がうまいとよく言われます。たしかに1500mを走っている間、ずーっと頭はフル回転させています」
レース前、森田選手は何度も展開をシミュレーションします。
「最後に勝つためには、どこで力を抜き、どこで前に出て、どこでスパートをかけるかを計算し尽くすことが大事。特に、どこで休むか、ということは重要です」。
どこで休むか? ずっと猛スピードで走っているように見えますが、1500mのなかで、力を抜き、自然に任せて流れるように走っている時間があると、森田選手は言います。
「僕が強烈なラストスパートを切れるのは、途中で休むのがうまいからです」
猛烈なラストスパートでゴールする森田選手(ナンバーカード42)
「1500mというのは、強烈な駆け引き勝負の種目です」と話すのは、小林光二コーチです。「一瞬の判断が、勝敗を決める。僕はロードの選手でしたが、距離が長いロードレースの場合はたいてい、人の後ろについて淡々と走る時間がある。それが、森田選手のいう“休む時間”です。しかし、トラック、しかも1500mの場合は距離が短く、スピードが速いのでそれが非常に難しい。僕はトラックが苦手でしたから、森田選手のうまさにはよけいに驚かされますね」。
考え抜いたトレーニングで
10秒縮める
森田選手は練習も、考え抜いて行うと言います。
「社会人2年目から、ウエイトトレーニングを本格的に始めたらタイムが10秒伸びて、日本の上位に食い込めるようになりました」
ウエイトトレーニングを重視している
もちろん、やみくもに行うわけではありません。
「尻を鍛えてみてどうか、背中は、胸は、腕は、と、いろんな部位を順番に鍛えてみて、それぞれの結果が、走りにどうつながったかを試しました。それを練習日誌にこまかく記録しておき、そのうえで、次のトレーニングの計画を練ります。計画は3日くらいかけて作り、常に修正します。
どういう練習をしたら、どうなったかを、自分の体で実験してきたんです。こうすることで、試合でも、結果を出せる確率がどんどん上がっていきました」。
日本人最速に挑む
世界陸連が発表した、ブダペスト世界陸上1500m男子の参加標準記録は、3分34秒20。これは、日本記録(3分35秒42)をも上回るタイムです。
あと3秒16を削り出し、日本人が到達したことのないタイムを出す。 壮大な目標に挑む森田選手ですが、清水歓太選手や梶谷瑠哉選手、鈴木勝彦選手らチームのメンバーとの議論が、とても役に立っていると言います。
清水歓太選手(左)らメンバーの意見を聞くことで、「試行錯誤のネタが増えた」と話す森田選手(右)
「SUBARUは練習内容を選手の自主性に任せる方針なので、それぞれが独自の考えで練習に取り組んでいる。その考えを聞くことで、試行錯誤のネタがずいぶん増えました。おかげで今、苦しい練習も本当に楽しくやれています」と笑顔を見せます。
駅伝でも脅威
阿久津圭司コーチは、森田選手が駅伝に出れば他のチームに対して脅威になる、と話します。
「彼のように強烈なスピードを持ち、ラストスパートできる選手にうしろに付かれると、最後は追い抜かれてしまう。早めに振り切っておきたいと思うから、ほかの選手は途中でスピードを上げざるを得ず、体力を消耗してしまいます」。
トラック競技に注力する選手は、駅伝出場を目指さないケースもありますが、森田選手は「駅伝に出たい」と言います。
「駅伝に向け、みんな高いモチベーションで練習していて、チームにいい波が起こっています。僕もこのメンバーと一緒に、その波に乗りたい」。