次世代燃料の可能性を追い求め、燃料開発にも果敢に挑戦

次世代燃料の可能性を追い求め、
燃料開発にも果敢に挑戦

パワートレイン設計部│古市 清也

記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています

スーパー耐久に挑むSUBARUの技術者たち。今回はカーボンニュートラル燃料(以下、CN燃料)やそれを用いたエンジンの開発に携わっている、パワートレイン設計部の古市 清也(ふるいち せいや)さんにインタビューしました。

「カーボンニュートラル」という言葉は最近よく耳にすると思いますが、改めて「CN燃料」とはどういうものなのか、教えてください。

まず「カーボンニュートラル」の定義ですが、温室効果ガスの排出量と吸収量をイコールにすることがカーボンニュートラルです。そして私たちがレースで使用しているCN燃料は、大気中にあるCO2や工場・車両から排出されるCO2を材料とし、風力や太陽光などの自然エネルギーから作られたグリーン電力を用いて生成した燃料に一部非食用のバイオ燃料を混合したものです。この燃料を使用した車両からはCO2が排出されますが、生成過程でCO2を回収していますので、大気中にあるCO2の総量としては増えていません。つまりこれが、「カーボンニュートラル」ということです。

なるほど。普通のガソリンとCN燃料には、何か特性の違いがあるのでしょうか?

いまレースで使用しているCN燃料は、ガソリンのJIS規格内に合わせて作られた燃料なので、大きな違いはありません。ですが重質性(揮発しにくい特性)を持っているという点では異なっており、上手く燃焼できないと燃料がエンジンオイルに混ざってしまうんです。その度合いがひどくなるとエンジンを壊すことになるので、その対策を進めてきました。

2023シーズンのSUGO戦では、CN燃料の成分を変更したそうですね。

はい、これまでのレースで得た知見をもとに燃料製造メーカーのエンジニアと話をして、改質を提案しました。匂いや見た目では新旧の区別はできませんが、成分を変更したことでしっかり燃焼できているかどうかを検証しているところです。

普段、自動車メーカーは「燃料を使う」立場であって「燃料を作る」立場ではないと思うのですが、その点はいかがでしたか?

同じ燃料を使用しているトヨタさんと協業して成分分析を行い、エンジンに与える影響を洗い出すことで改質を実現できたのですが、これまで燃料製造メーカーの方と話をすること自体がなかったので、とても新鮮でした。

もしCN燃料が実用化されれば、SUBARUの特徴の一つでもある水平対向エンジンを残すこともできそうですね。

はい、まさにその通りです。この先、BEV*1をはじめとする電動車が増えていくと捉えていますが、もちろん「SUBARUのBEVはいいね!」と言っていただける商品を提供したい一方、クルマの使い方や使う環境によってはBEV以外が最適な場合もあると思います。
そうした時に、環境負荷の少ないものであれば、BEV以外の選択肢も選べるような状態を作り出したいと考えているんです。

*1:Battery Electric Vehicle(電気自動車)

「CN燃料の開発」という観点で、これまでのスーパー耐久を振り返ってみていかがですか?

これまで机上や実験室でやっていたことが、レースの現場で実車に投入して走って評価することで、開発をスピーディーに進められるようになったことがとても大きいと感じています。ですのでSUBARUのエンジニアに対しては、各自が持っている課題があれば、どんどんスーパー耐久の場を利用して課題解決につながる活動をしてほしいと思っています。普段の業務では関わらない方とも接点を持つので学ぶことも多いですし、気付きも生まれてきます。特に、今の自動車業界は「100年に一度の大変革期」と言われ、非連続でかつてないほどのスピードで変化している時代ですので、自分たちで未来の絵を描けるようにしていかなければいけないわけですから。

古市 清也

古市 清也(ふるいち せいや)

2004年中途入社。大学では動力機械工学を専攻。自動車アフターパーツメーカーの社員としてモータースポーツ(D1 GRAND PRIX)に携わった後、SUBARUへ入社。2015年からは、高出力ターボエンジンの先行開発やスーパーGT関連の業務に携わる傍ら、スバルドライビングアカデミー(SDA)のメンバーとして若手エンジニアの育成にも力を入れる。現在は内燃機関の先行技術開発およびCN燃料の開発業務を担当。

クルマの未来に対する熱い想いが垣間見えた古市さんでした。レースを通じて切磋琢磨を続けるSUBARUのエンジニアたちの挑戦、次回のコラムもぜひご期待ください。

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