プロジェクトインタビュー

速く走り勝つために、新しい技術を何でも試す。
若手も部署も関係なく挑む、レースという現場。

スーパー耐久シリーズ ST-Qクラスへの参戦

  • 技術系総合職(自動車)
  • * ST-Qは、他のクラスに該当しない、スーパー耐久未来機構が認めた開発車両が参加できるクラス

S・I 技術系総合職(自動車)

2009年入社 車両運動開発部・Team SDA* Engineering 監督・チーフエンジニア

パワーユニット研究実験部(現車両環境開発部)でCVTの油圧系開発に従事し、2021年より現職。現在は駆動系の先行開発を担当。2016年にSDA2期受講生として加入し、2018年からインストラクター。2022年のスーパー耐久シリーズ(以下、S耐)参戦時から駆動系の取りまとめとして参加し、2024年シーズンより監督を務める。趣味はサーキット走行、マウンテンバイク、バイクと、タイヤのついたものに乗ること。

  • * スバルドライビングアカデミー

K・S 技術系総合職(自動車)

2021年入社 車両運動開発部・SDA インストラクター

入社以来、サスペンションの操縦安定性に関する解析に従事。2023年にSDA6期受講生として加入し、2026年からインストラクター。2023年のS耐参戦時から、操縦安定性に関するデータ解析を担当。趣味はサーキット走行、カーレースゲーム、実家の猫を愛でること(自宅に子猫のお迎え計画中)、海鮮を食べること。

N・S 技術系総合職(自動車)

2018年入社 車両環境開発部・SDA インストラクター

排出ガス性能の開発を経て、2021年より走行性能のエンジン制御開発を担当。2024年より環境性能開発に移り、現在はエンジン適合を担当。2022年にSDA5期受講生として加入し、2026年からインストラクター。2022年のS耐参戦時から参加し、エンジン制御開発とST-4クラス*に参戦するGR86の技術サポートを担当。趣味はサーキット走行、動画鑑賞、スノーボード。

  • * 排気量1500cc〜2500ccまでの車両クラス

C・K 技術系総合職(自動車)

2019年入社 パワートレイン設計部・AWD駆動系設計

パワートレイン設計部で新規マニュアルトランスミッションの開発に従事し、2021年よりAWDの先行開発*を担当。2023年後半からS耐に参加し、車両のAWD化以降は本格的に駆動系ハードウェア設計全般を担当。SDAには興味を持ちつつ、参加のタイミングを狙っている。趣味はキャンプ、カメラ、動画鑑賞、ゲーム、手芸。

  • * 量産開発の前段階で、将来必要となる要素技術を開発する仕事。

N・A 技術系総合職(自動車)

2019年入社 ADAS開発部・AWD駆動系制御開発

ADAS開発部 CVTのOBD(車載式故障診断装置)制御開発、2モータバッテリーEV(以下、BEV)向けAWD制御の先行開発を経て現職。現在はBEV、ストロングハイブリッドのAWD制御開発に従事。2023年にSDA6期受講生として加入し、卒業。S耐車がAWD化したタイミングで参加し、センターデフ・リアデフの制御開発を担当。趣味は音楽(演奏も鑑賞も)と、最近は海外旅行。年に1回は海外に行けるようにS耐というお仕事を頑張っている。年2回ほどお気に入りの車でサーキット走行も。

このプロジェクトについて

速く走るための挑戦が、もっといいクルマにつながる。
レースを起点にしたクルマづくりと人財育成。

S耐は、市販車をベースに改造したレースカーが、長時間にわたって走り続ける耐久レースです。その中でもST-Qクラスは、メーカーの垣根を越えて、未来のカーボンニュートラル社会に向かって共に挑む「共挑」のもと、レースで得た知見の市販車へのフィードバックや、カーボンニュートラルに貢献する燃料などの実証に取り組んでいます。SUBARUは2022年からこのクラスに参戦しており、現在は「SUBARU HIGH PERFORMANCE X VersionⅡ」で戦っています。

レースの間隔は、短ければ1カ月。量産開発では年単位で開発を行うのに対し、S耐では1~3カ月のレース間隔の間に課題を洗い出し、次のレースまでにクルマをアップデートし続けなければなりません。トラブルも日常茶飯事です。それでもSUBARUがこの現場を大事にしているのは、お客様に届ける量産車では踏み込めない一歩を、自分たちが開発する1台なら踏み込めるからです。そしてここで得た経験や技術を持ち帰ることで、量産車開発そのものも良くなっていきます。

この現場を支えているのは、社内公募で集まった約60名。5年未満の若手も多く、普段の量産車開発と並行してこのプロジェクトに関わっています。全員が共通の目的の一つとして向かっているのは、レースで速く走り、勝つこと。そのシンプルな目標に向かって、全員が新しい技術を提案し、失敗を重ねながらクルマを鍛えていく。その道のりを、プロジェクトに携わる5人に振り返ってもらいました。

スーパー耐久開発チームの体制図。監督のS・I、操縦安定性のK・S、エンジン制御のN・S、駆動系設計のC・K、制御開発のN・Aと、他のメンバー約60名の関係を示す

プロジェクトの流れ

S耐の開発は、決まった工程を一度通過して終わりではありません。次の参戦スケジュールまでを一つのサイクルとして、シーズンを通して繰り返されます。

レース直後

振り返り

レースで何が起きたか、どこに課題があったかを洗い出す工程です。現場で対策が決まることもあります。

1週目

対策検討

洗い出した課題に優先度をつけ、何から手をつけるかを決めます。緊急度が高いものは「翌週対応します」と全体に宣言することも。

2週目〜

設計・制御作成

決めた対策を形にしていく工程です。設計はハード面での対応が必要なため、2戦先のレースを見据えて動きます。一方で、ハード面での対応を必要としない制御は、随時アップデートを検討します。

レース直前

実走確認

テストコースで実際に走らせ、狙った通りの動きになっているかを確かめる工程です。ここを通過してレースへ臨みます。

SCENE01

“走れるエンジニア”たちが挑む、S耐という現場。
クルマを鍛えることが、人を鍛えることにつながっていく。

──そもそもSUBARUは、なぜスーパー耐久に参戦しているのでしょうか。

S・I

目的は3つあって、「人財育成」「もっといいクルマづくり」「カーボンニュートラルへの挑戦」です。人財育成でいうと、S耐はレースでクルマを鍛えているので、開発スピードが速いんですよね。早ければ約1カ月後に次のレースなので、その前のレースで出た課題は次までに解決しないといけないですし、クルマ自体も短いインターバルで進化させなくちゃいけない。

N・S

普通の量産車開発って数年単位なんですよね。小さい規模であれば、1年くらいのこともありますけど。

S・I

それに対してS耐は数カ月というスパンなので、とにかく早く手を動かして、試して、確かめるしかない。その進め方が身についた人が量産車開発に戻れば、量産車の開発ももっと早く、いいものが生まれる。このスパイラルは、S耐参戦の目的である人財育成の仕組みのひとつです。しかもレースは勝ち負けがはっきり出るので、負けた悔しさがそのまま原動力になる。量産車開発にもライバル社はいますが、順位という形では出ませんから、そこはレースならではですね。

モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりという点では、一つは、レースという過酷な環境下でクルマを鍛えることです。もう一つは、量産車の制約をいったん外して、サーキットで速くて乗りやすいクルマをつくるにはどうするか、と純粋に考えてみることです。制約がないぶん、量産車では選ばないような方法にもたどり着きます。そこで見えたものを、今度は量産車の制約の中でどう実現するかと考える。そうすると、これまでにない価値が生まれるんです。

3つめのカーボンニュートラルは、「共挑 ※1」という取り組みにおける重要テーマです。ST-Qクラスに参加している自動車メーカーと燃料メーカーとで、内燃機関のカーボンニュートラルをどう実現するかを一緒に考えています。メーカー間って、どうしても機密があって話しづらいんですけど、S耐の場だけはそれを抜きにして、こんなこと言ってもいいのかな、というところまで共有し合えるんです。

N・S

内燃機関をこれからも使い続けるには、環境負荷の低い燃料が欠かせません。そこで今、スーパー耐久シリーズのST-Qクラスに参戦する車両では、低炭素ガソリン(E20)を使用しています。耐久レースという過酷な環境で使用して知見を蓄積し、より良い燃料にしていくため、SUBARUだけでなく参画各社で知見を持ち寄りながら開発に取り組んでいます。

  • ※1 共挑(きょうちょう):自動車メーカーや燃料メーカーが企業の垣根を越え、カーボンニュートラル社会の実現に向けた技術開発や実証にともに挑戦する取り組み。
スーパー耐久レースについて説明する監督のS・Iさん

──皆さんはそれぞれ、このプロジェクトでどんな役割を担っているのでしょうか。

S・I

私は監督です。とはいえ、私の方からこうやろうよと言うことはあまりなくて、みんなが「こういうのをやりたいね」と言ったら、じゃあぜひやってみようかと後押しする。サポートのような役です。

K・S

私は操縦安定性の解析という、クルマの曲がる性能のシミュレーションを担当しています。普段の業務で扱っているのはサスペンション、いわゆる足回りですね。最近はサスペンションに加えて、AWDのシステムにもちょっとずつ関わっています。

N・S

私はエンジン制御です。せっかくS耐という1つのチームでやっているので、エンジン制御だけじゃなくて、ブレーキや操縦安定性といった他の領域に、自分たちのつくったものが悪い影響を与えていないか、みんなと会話しながら確認しています。

C・K

私は駆動系の設計です。デファレンシャルギヤ(左右のタイヤの回転差を吸収する装置)やトランスミッションで、エンジンから伝わってきた駆動力をいかに変速して、効率よくタイヤに伝えていくか、というところですね。新しい技術の入ったハードウェアを作って、それを制御の人に渡す役回りです。

N・A

私は駆動系の制御です。C・Kさんたちが作ってくれたデファレンシャルギヤを、どのタイミングでどう繋ぐかという締結の制御を担当していて、みんなが作ってくれたクルマを、どういうふうに曲げたいとか止めたいとか、最後に制御で味付けするというところをやらせてもらっています。

左からS・Iさん、K・Sさん、N・Aさん
左からN・Sさん、C・Kさん

──プロジェクト全体では、どのような体制で進んでいるのでしょうか。

S・I

中心になって関わってくれているメンバーだけでも、60人くらいだと思います。一番最初は、スバルドライビングアカデミー(SDA)という組織のインストラクターがリーダーになって、「こういうのをやるけど、やりたい人はいますか」と社内で公募したんです。興味がありそうな人に声をかけて、手を挙げてくれた人たちに集まってもらいました。今も継続している人が多いんですけど、新しい人も入ってきますし、メンバーを入れ替えながらやっています。若手も多いですね。

N・S

私は入社4年目からで、もう6年やっていますね。

K・S

私は早い方で、入社2年目から参加しています。

S・I

このチームの良さは、そうやって若手が多いことに加えて、関係性がフラットなところだと思います。SUBARU自体にそういった土壌があるかもしれないですけど、上も下も関係なく、物事を言い合える。すごくチームの関係性は良いです。

──先ほどSDAという言葉が出ましたが、どんな取り組みなのでしょうか。

S・I

スバルドライビングアカデミー(SDA)は、「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」エンジニアを育成するプログラムです。SUBARUには専任のテストドライバーがおらず、開発段階でクルマを評価するのはエンジニアです。設計や実験を担当するエンジニア自身がクルマに乗り、その仕上がりを確かめます。SDAは、そのために必要な運転スキルや評価能力を磨く場です。

エンジニアに求められるのは、「乗って、感じて、考えて、物理にする」という一連の流れです。まずは自分で運転して、クルマの挙動を感じ取れるようになる。次に、それがなぜ起きているのかをクルマのメカニズムから考える。最後に、数値や図面という形にする。SDAでは、この一連の流れを一人でやりきれるように鍛えていきます。SUBARUには、「ドライバーの評価能力以上のクルマはつくれない」という考え方があります。だからこそ、SDAで運転スキルと評価能力を高め、クルマのわずかな違いを感じ取り、その違いを生み出すメカニズムを深く追究します。そこで得た知見を開発に織り込むことで、より良いクルマづくりにつなげているんです。

──とはいえ、レース本番のサーキットではエンジニアが乗るわけにはいきませんよね。

S・I

そうなんです。サーキットではドライバーしかクルマに乗れないので、私たちはドライバーから聞いたコメントをもとに開発することになります。

K・S

私は最初、ドライバーの言っていることがよく分からなかったんです。ブレーキングの時やカーブに入る時に、リアがめくれる」と言われるんですよね(笑)。でも、その言葉を物理現象としてそのまま捉えると、クルマがジャックナイフしているような状態になってしまいます。実際にはそうなっていないので、「めくれる」とはどういうことだろう、と思いました。

でもSDAでは、実際に自分でテストコースやサーキットを走って、そこで感じたことを言葉にして周りと共有するんです。そうすると、この人はこういうところを重視して走っているんだな、というのが見えてくる。それを繰り返すうちに、ドライバーの言っていることともだんだんつながってきて。SDAをやっててよかったなと思います。今は、ドライバーはこういうことを感じているんじゃないかな、と当たりをつけてからデータをグラフにしてみるんです。すると、確かにこのあたりからクルマの動きが急に変わっているね、というのが見えてくる。それが議論の種になるので、そういう部分で活きているかなと思います。

N・A

SDAには、もともとサーキットを走っていましたという人も結構いるんですけど、私は運転に関しては本当に素人だったんです。開発の時にいきなり「リアのつり感」とか「しっとり感」とか言われて、何言ってるんだろうって。AWDの開発をするのに、自分が走れないと何も分からないと思って、SDAに入りました。卒業した今は、分かるようになった部分もあります。まだ足りていないところも多いですけど、逆に、自分が言葉を発する時に、相手に分からない言葉を使っていないかなと気にするようにもなりましたね。

C・K

私はまだSDAに入れていないんですけど、入りたいと思っています。S耐に参加して自分でクルマに乗って評価していると、自分の言語レベルと相手の言語レベルが合ってないなと感じるところがあって。そこが揃っていないと、この感覚のここが気になるんだ、というのが直球で伝えられない。SDAのメンバーはみんな同じように技量を磨いてきているので、共通言語化ができるんじゃないかなと思っています。

開発車にもSDAの文字があしらわれている
SDA インストラクターでもあるK・Sさん

SCENE02

試してみよう、と言える環境がある。
トラブルも失敗も、次に進むための経験になっていく。

──S耐の開発現場は、普段の開発とどのように違うのでしょうか。

N・S

量産車は、何かあればお客様にご迷惑をおかけしてしまいます。でもS耐は、自分たちが開発している1台。もちろん失敗していいわけではないんですけど、ここでの失敗は次の開発に必ず生きてきます。S耐で経験したことを量産車開発で繰り返さないように落とし込んでいく、というところが、この活動の良さなのかなと思います。

C・K

だから新しいものを採用するハードルが全然違うんですよね。量産車だと新しい技術を載せるのは、安全性などを総合的に判断して採用するためハードルが高いです。それがS耐なら、まずは試してみようと言える。チームから頼まれていない部品でも、この先こういうものが必要になるだろうなと思えば、先回りして作っておくこともあります。

N・A

制御も同じですね。S耐は「サーキットで速く走る」という目的がはっきりしている分、思い切ったことがやりやすいんです。思い切りすぎることもありますけど(笑)。

K・S

量産車には絶対織り込めないような制御を試したこともありました(笑)。

C・K

それに、自分が作ったものを駆動系の人だけで見るんじゃなくて、エンジンや車体、それに全体を見ている操縦安定性の人たちにも、いろんな視点から見てもらえるんです。そういう場として活用できているのは、すごくいい環境だなと思います。

K・S

見てもらうだけでなく、こちらから助けを求めることも多いですよ。ドライバーから「ここのコーナーが曲がらない」と言われた際に、私の担当している足回りだけでは解決が難しいことがあって。その場でN・Aさんに「制御の方でなんとか助けてくれないですか」とお願いしたりします。

N・S

そういうやり取りから、思わぬものが生まれることもあって。当時BRZで参戦していた頃のバンパーがすごかったですね。エンジンの出力を上げたいっていうので、外装チームとエンジンチームがうまく組んで、いかにエンジンに空気を吸わせるかっていうアイテムを作り出したんです。出力、結構上がりましたよ。これも、その場での何気ない会話から始まった話でした。

──そうした環境では、若手にも大きな役割が任されるのでしょうか。

N・S

そういう場だからこそ、若手が手を挙げてくれるんだと思います。自分の職場での仕事がひと通りできるようになった頃に、次はクルマ1台を見られるようになりたい、といって入ってくる。レースごとに改良を重ねていく中で、人もクルマも鍛えられて、その学びを量産車開発に還元していく。そうやって若手が入れ替わりながら、このサイクルを回し続けたいというのが、S耐活動の意義なのかなって。

難しいことは……やっぱり、決断することですね。若手だけになると、困った時に手が止まってしまうことがあるんです。ただ、そこも含めて決断する練習なのかなと思っています。

S・I

若手にとっては決断する練習になりますし、その一つ上の世代にとっても、後輩が困って止まっているのを見て自分が決断してあげる、という経験になる。将来リーダーになる人を育てるという意味でも、良い影響がありますね。

開発車の隣で作業をする様子

──これまでのレースで、特に印象に残っている出来事はありますか。

K・S

初年度はあれですよね、24時間レースでミッションが壊れて。

N・S

あと、予選が走れなかったり。

S・I

2年目はクラッチが切れなくなったり。

K・S

最近だと、初戦でエンジンが吹け上がらず、走れなくなったこともありましたね。

C・K

駆動は制御ミスでデファレンシャルギヤをロックさせたり。

N・S

逆にデファレンシャルギヤを開放しちゃって。

S・I

白煙もくもくしてたり(笑)。本当はノートラブルで終えたいんですけど、チャレンジしている分、ノートラブルでレースウィークを終えられたことって、本当に数えるくらいしかないんですよ。

──トラブルが起きたとき、現場ではどう動くのでしょうか。

S・I

現場で「ああ、こういうことか」と原因が分かれば、その場で直してしまいます。特に制御まわりは、その場での修正が利きますから。すぐに直せないものは、データを見ながら「ここが良くないので、次のレースまでに直します」と決める。いずれにしても、その場で判断して手を打つ。そういう現場力は、すごく養われると思います。

そして、トラブルが起きたときほど人は伸びるんです。レースウィークは木曜日から日曜日までの4日間なんですけど、その間だけで見違えるほど頼もしくなる。新しい人が入ると、だいたいその人の部品にトラブルが出るんですよ。本人はあたふたしながら、周りに助けられながら必死にやって、最終日にはもう別人みたいになっている。見ていて、いいなと思いますね。

N・A

後輩が1人、前回のレースに行って帰ってきたら、別人みたいになってました。それまでは自分に確認してから動いていたのが、自分で判断して進められるようになっていて。「大変でした〜!」って言いながら、すごくいい顔をしていましたね(笑)。

SCENE03

レースの現場から、市販車へ。
技術も人も、次の段階へ進んでいく。

──このプロジェクトで、喜びを感じるのはどんな瞬間でしょうか。

S・I

私は2025年の最終戦が一番印象に残っています。当時のチームの目標は、市販車ベースで戦うST-2というクラスのタイムを上回ること。それを最終戦でついに達成できたんです。SUBARUの社員ドライバーの中には、レースなんてやったことがなかったようなエンジニアもいますが、最後までしっかり走り切ってくれました。みんなの努力が報われた瞬間で、泣きましたね(笑)。仕事で泣くことって、なかなかないですよね。それくらい、みんながこの活動に思いを込めているということなんだと思います。

N・A

監督のそんな話のあとだと、ちょっと話しづらいんですけど(笑)。私は、自分の狙い通りにクルマが動いてくれた時ですね。こう来たらこう動くはずだ、ドライバーからはこういうコメントが返ってくるはずだ、と思って制御をつくる。その通りになると、よっしゃーって(笑)。逆に、狙いとは違う動きだったのに「良かったよ」と言われると、嬉しいけど悔しいんです。

K・S

私は、自分の提案が形になった時ですね。現地でドライバーから「ここが駄目なんだ」と言われて、じゃあこう変えたらどうですかね、とみんなで話し合うんですけど。その自分の案が採用されて、ドライバーが改めて乗った時に「よくなったよ」と言ってもらえるのは嬉しいです。

あとは、ドライバーが違和感を覚えた原因は、このデータのこの部分に表れているんじゃないか、と自分の見立てを説明した時に「ああ、そうかもね」と言ってもらえた時。そこから「いや、もっと違う要因もあるんじゃないか」と議論が広がっていくのも楽しいなと思います。

C・K

ハードウェアを担当する立場からすると、トラブルもペナルティもなくレースを終えられた時ですね。私たちがクルマに載せているのは開発中のハードウェアなので、想定外の力がかかって急に壊れる可能性もゼロではありません。そんな中で何事もなくレースウィークを終えられると、嬉しいというより、まず安心する。そういう感覚に近いかもしれません。

N・S

私も、狙った動きになってドライバーからポジティブなコメントがもらえた時はやりがいを感じます。それに加えて、チーム全体で決めた目標を達成してゴールできた時が、やっぱり一番うれしいですね。

──S耐で得た技術は、市販車にも活かされているのでしょうか。

S・I

そもそも新しい技術って、量産車では発売の直前まで表に出さないのが普通なんです。内緒にしておいて、こういうものができました、と発表する。ところがS耐では、どのクルマに載るかもまだ決まっていない技術を、レースで先に走らせてしまう。

C・K

レースで実績が出れば、この技術はSUBARU車にこれだけの効果があるんだ、と社内の人にも、社外のお客様にも知ってもらえます。そこで良いと言ってもらえたものが、市販車につながっていくんです。

N・S

SUBARU BRZ STI Sport TYPE RAという、300台限定の特別仕様車があります。そこには、S耐の現場から生まれたレブシンクとフラットシフトという機能を織り込みました。レブシンクは、シフトダウン時にエンジン回転数を自動で制御し、スムーズな変速と運転負担の軽減を図る機能です。一方、フラットシフトは、アクセルを戻さずにシフトアップする操作を可能とし、トランスミッションへの負荷軽減と鋭い加速レスポンスを両立する機能です。S耐で使っていたものより、さらに良いものを量産車に落とし込めたと思います。

しかもこの限定車、もともとBRZの量産開発担当ではない自分が、チャレンジさせてもらったものなんです。やりたいと言えば積極的に任せてくれる。自動車メーカーの中では規模が小さいからこそ、そういうチャレンジをしっかりやらせてくれるのかなと思いました。

N・A

小回りききますよね。やりたいって言ったらやらせてくれる。ただ、サーキットの高速域で成立した制御を、量産車にそのまま適用できるとは限りません。レース車と量産車では、開発の前提や求められる要件が異なるからです。S耐で得た技術を量産車にどうつなげていくか。今は、その実現に向けて取り組んでいるところです。

N・S

私は量産車開発の業務もやっているので、レース車と量産車では、開発の前提や求められる要件が異なることも理解しています。その上で、S耐で得た技術や知見を、どうすれば量産車にうまく橋渡しできるのか。今は、その方法を模索しているところですね。

──このプロジェクトを通じて、ご自身はどのように成長しましたか。

N・A

なんとなく視野が広がった気がします。まだ狭いとは思いますけど。参加する前は「クルマ1台を見る」とぼんやり思っていただけでしたが、AWDの担当から見たときにクルマ1台をどう捉えればいいのか、つかめてきたような、まだつかめていないような。そういう意味では、成長し始めていたら嬉しいなと思っています。

K・S

私もそんな感じですね。最初はタイヤやサスペンションがどうなっているんだろう、くらいしか考えていなかったのが、四輪で考えて、駆動と合わせたらどうなんだろう、ブレーキと合わせたら、空力と合わせたら、とS耐参戦を通じて自身の担当領域外も含めて考えられるようになってきました。人脈が広がって、自分の専門外のことを気軽に聞ける相手が増えたのも大きいです。

N・A

人脈は本当に大きいですね。S耐とは関係のない量産車開発の仕事でも、この件はあの人に聞けばいいな、と顔が浮かぶようになりました。

──そうした経験を踏まえて、どんな方と一緒に働きたいですか。

C・K

1つに限らず、いろんなことに目を向けられる人がいるといいんだろうなって、個人的には思います。

N・S

実は私、入社時のエントリーシートに「クルマ1台を語れる技術者になるためにSUBARUに入る」と書いて志望したんです。SUBARUは自動車メーカーの中では規模が小さいからこそ、1人に任せてもらえる仕事の幅が広い。そう思って選びました。

実際に入ってみて、領域を越えて連携する力はS耐で鍛えられましたし、自分で乗って感じたことを考えて物理にする力はSDAで鍛えられた。今はエンジンだけでなく、ブレーキや操縦安定性、デファレンシャルギヤの制御まで、自分で乗ってフィードバックしています。少しずつですけど、クルマ1台を語れる技術者に近づいている実感があります。そういう会社なんじゃないかなと思います。

S・I

やっぱりいろんなことにチャレンジしたいって思ってる人とか、いろんなことに興味を持ってる人が、SUBARUに合うのかなと。みんなが言ってくれたみたいに、いろんなことにチャレンジできる会社だと思いますし、でもそれは自分で手を挙げていかないとチャレンジできない。私も長いあいだトランスミッションや駆動系の開発を担当していましたが、SDAをやりたいと手を挙げて、S耐もやりたいと手を挙げました。そうやって自分から動けば、挑戦できる環境はある。あとは自分のやる気と……。

N・A

受け身じゃダメですよね。

S・I

そう。積極性を持って、いろんなことにチャレンジしたいって思える人が、すごくいいと思います。

勝ち(価値)に拘る!! / 乗って愉しい 乗りたくなるクルマを作る / 良いクルマを求めて常に挑戦!! / No Venture, No Gain. 挑戦しましょう / S耐で挑む、速くて愉しいクルマづくり!