CEOメッセージ
SUBARUグループが目指す将来像に向けて
急激な環境変化に対応する柔軟性と機動力の進化
自動車産業が「100年に一度の大変革期を迎えた」と言われ始めてから、すでに長い年月が経過しました。特に、私が代表取締役社長に就任してからの2年余りで起きた非連続な変化やそのスピード感は想定以上であり、この1年だけを取り上げても、自動車業界全体がこれまで経験したことがない激動に直面しています。SUBARUは、こうした不確実性の高い状況のなかでも、企業としての方向性をぶらすことなく、むしろ企業規模を活かした機動力を磨き、スピード感を持って対応できる力を、この2年間で大きく進化させてきました。今後も、柔軟性と拡張性をさらに高め、変化に強いモノづくりと価値づくりを通じて、お客様に最適な商品をお届けし続けることが、私たちの使命であり、CEOとしての責任だと考えています。
私は入社以来、一貫して現場主義を貫いてきました。設計や製造、品質保証部門などでのキャリアを通じて、悩みや壁にぶつかるたびに現場に足を運び、答えを探してきました。社長就任後もできる限り現場に赴き、グループ従業員や世界各地の生産や開発、販売現場の生の声を聞くことが、経営判断の起点になっています。この2年半で「答えは現場にある」という実感を何度も得てきました。今後も、現場からの発想を重視する姿勢は変えることなく、変化の激しい環境のなかで、スピード感を持って経営判断を行ってまいります。
ひとつのSUBARU化で挑む、変化に強い企業文化の創造
組織の壁を越えて——CXO体制による全体最適とスピードの実現
社長に就任した当初、当社は自動車業界の中では企業規模が大きくはないにもかかわらず、組織の中に多くの“壁”が存在していることに課題を感じました。変化の激しい時代において、全体最適で物事を判断し、スピード感を持って行動するためには、こうした壁を取り払い、小回りが利く企業規模を活かして一体となる必要があると考えました。その想いから始めたのが「ひとつのSUBARU化」です。
まず2024年には、群馬製作所内に「イノベーション・ハブ」を設置し、企画から設計、開発、調達、生産技術までのエンジニアリングチェーンに、パートナー企業とサプライヤーの皆様も加わり、部門や会社の壁を越えてメンバーが議論できる場を提供しました。これにより、社内外の人と人とのつながりが深まり、スピード感と柔軟性が格段に向上しています。
その後、5つの重点テーマを定めてCXOを配置し、強力な権限を持って組織に横串を通せる体制を構築しました。現在、5人のCXOによるこの指揮系統は非常にうまく機能し、コミュニケーションがとりにくかった部門同士を有機的につなげる働きかけや仕組みづくりを次々と実行し、結果として、商品開発のスピードが一気に加速しています。一連の成果を踏まえ、2025年度は新たにCLO (最高物流責任者)とCHRO (最高人財責任者)を任命しました。今後、各プロジェクトの目的や進行状況に合わせて、CXO同士が縦横に連携できる体制を一層強化していきます。
“ひとつのSUBARU化”は、単なる組織改革ではなく、変化に対応し続けるための企業文化の進化だと考えています。グループ従業員が同じ想いのもと一つになり、人と人のつながりを大切にしながら、SUBARUらしい価値を社会に届けていきます。
挑戦を後押しする風土づくり——人財の力を引き出す組織改革
SUBARUの価値創造の根幹を支えるのは、他でもない「人財」です。そして、未来を切り拓くためには、未知への挑戦が不可欠であり、その挑戦を支えるのは、従業員一人ひとりの力にほかなりません。当社の従業員は、真面目で誠実な気質が根づいていますが、同時に失敗への不安や協力を得ることへの遠慮などから、挑戦への一歩をなかなか踏み出せない傾向が見受けられたことも事実です。だからこそ、“ひとつのSUBARU化”という考え方のもと、この1年でも、部署の壁を越えたコミュニケーションを促進する組織体制の整備や人事施策の強化などに取り組んできました。また、経営層側からも積極的に従業員に声をかけ、挑戦を応援し、失敗を認めることで、さらなる挑戦を後押しする風土の醸成にも努めてきました。その結果、特に若手社員を中心に、チャレンジャブルな人財が着実に増えてきたと感じています。挑戦と失敗を許容する文化が、少しずつSUBARUの中に根づき始めているのです。
サステナビリティの重点6領域の一つである「ダイバーシティ」を「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」へと進化させた背景にも、同じ想いがあります。SUBARUには、多様な視点や自由な発想を持つ、可能性に満ちた人財が数多く存在しています。それぞれが持つ“良い種”を引き出し、皆で育てていくことで、イノベーションを生み出す。このサイクルを回すための風土づくりこそが、経営の使命だと考えています。
未来をつくる挑戦——「ひとつのSUBARU」でやりきる覚悟
我々が取り組む「モノづくり革新」や「価値づくり」の実現に向けては、これまでも様々な準備を進めてきました。一方で、具現化に向けては、やってみなければわからないことも多いということが現実です。「ひとつのSUBARU」として、全グループ従業員が一丸となって挑戦し、やりきる。経営トップとして、根づきつつある変化の波をさらに大きなものにすると同時に、共に未来をつくっていくことへのモチベーションを高めてまいります。
「モノづくり革新」と「価値づくり」の進捗
高度化・複雑化するクルマづくりへの新たな挑戦
当社グループは2023年8月に発表した「新経営体制における方針」に基づき、柔軟性と拡張性をあわせ持った「モノづくり革新」に強い決意を持って取り組んでいます。詳細については今後開示していきますが、すでに「モノづくり革新」が急速に定着してきたという実感を得ています。カーボンニュートラル社会の実現に向け、当社の持つリソースやオポチュニティを踏まえた手段としてBEVを選択し、大きく舵を切ってきました。昨今、BEVの需要は踊り場を迎えていますが、引き続き中長期的にはBEVが主軸になっていく考えに変わりはありません。従来のICE系商品とは大きく車両構造の異なるBEVという「新しい商品」を企画・開発し、更地にゼロから建設する「新しい工場」で生産を始めるという挑戦は、他社に対し優位となる従来の枠組みを超えた「モノづくり革新」の大きな転機です。今後は、BEVを起点とした新たな「モノづくり革新」の要素をICE系商品にも展開していきたいと考えています。
SUBARUならではのお客様との強固な関係性を活かした価値づくり
新経営体制方針において、もう一つの重点取り組みは「価値づくり」です。当社はお客様に提供したい価値を「安心と愉しさ」と定めています。しかしながら、その「安心と愉しさ」を感じる場面やきっかけは、お客様一人ひとり異なります。だからこそ、当社はお客様に寄り添った取り組みを何よりも大切にしています。当社の強みは販売店やお客様との深い結びつきにあります。お客様がクルマを保有されている期間中、その魅力が損なわれることなく、より長いお付き合いをいただけるよう、「減価ゼロ」の発想で新たな価値の創造に挑戦しています。その実現に向けて、今後はさらにお客様とのタッチポイントを増やし、いただいた声を商品開発に反映させるとともに、購入後のサービス領域にも活かしてまいります。これにともない、アフターセールス領域の組織改編を行い、体制を強化しました。
社会に寄り添うSUBARUのこれから
「安心と愉しさ」を、持続可能な社会の礎に
SUBARUは、企業価値や強みを最大限に活かした形で、持続可能な社会の実現とSUBARUグループの持続的な成長の両立を目指しています。その想いのもと、2024年度には従来のCSR重点6領域を「サステナビリティ重点6領域」として発展させました。今後は、企業活動のあらゆる場面で社会的価値をより意識し、ステークホルダー全体に向けた取り組みへとスコープを広げていきます。
サステナビリティ重点6領域のひとつである「安心」では、2030年死亡交通事故ゼロの実現に向けて取り組みを進めています。これは社会課題に対し非常に重要な挑戦である一方、現実には多くのハードルが存在します。たとえば、逆走車や大型車両に前後から挟まれた事故など、SUBARUの商品や技術だけでの実現は難しいケースもあります。センサーを多量に搭載することなどにより安全性を高めることは可能ですが、コストの上昇が普及の妨げとなる可能性があります。だからこそ、適正価格で安全技術を全車に搭載することを重要な課題と位置づけ、積み上げてきた技術力を活かして、安全技術を搭載したクルマの普及を図ります。加えて、他社との連携やインフラ領域での協業※、交通安全意識向上への啓蒙など、より広い視点から社会全体での事故低減に全社を挙げて取り組んでいくことで、持続可能な社会の実現を目指します。また、安全性の確保にとどまらず、例えば、コネクティッド技術などによる「見守られている」という感覚や、地域の販売店との継続的な関係性などが、安心の一端を担うと捉えています。SUBARUは、人とのつながりを大切にしながら、社会にやさしい取り組みへとつながる持続可能なサイクルの形成を目指しています。
ステークホルダーの皆様へ
SUBARUのクルマを長くご愛顧いただくことが、お客様の人生を豊かにするだけでなく、社会全体にとっても優しい選択となるよう、私たちはこれからも、すべてのステークホルダーの皆様と共に、より良い未来を築いてまいります。
2023年の社長就任以来、激動の時代の中でも柔軟かつしなやかに対応できる力を高めるための施策を重ねてきました。その成果は着実に浸透し、現在では実行フェーズへと移行しています。将来に向けて、私たちは「ひとつのSUBARU」で新たな価値創造に挑み続けています。困難な状況にも屈することなく、これまで準備してきた力を信じて、未来を切り拓いていく。その姿こそが、SUBARUの変わらぬ本質であり、皆様と共に歩む未来への約束です。どうぞご期待ください。