現場の力を軸に、
SUBARUの
価値創造を次の段階へ

代表取締役社長
CEO(最高経営責任者)
大崎 篤

変化する事業環境と経営の基本姿勢

私が2023年に社長に就任して以降、当社グループを取り巻く事業環境は、想定を上回るスピードで大きく変化してきました。米国における各種政策の動向、地政学的リスクの高まり、原材料・労務コストの高騰など、複数の要因が同時に進行するなかで、その変化は非連続ともいえるものとなっています。
このような環境のもと、私がCEOとして強く意識しているのは、「柔軟性と拡張性」です。変化に対しては柔軟に、方向性が見えた領域には拡張的に対応する。これが、次の成長段階へ踏み出すための基本姿勢です。
一方で、こうした柔軟性と拡張性のある取り組みを場当たり的な対応へと流れることなく、確かな価値創造につなげるためには、規律ある統制が不可欠です。お客様にお届けする価値の本質「安心と愉しさ」、そして社会から信頼される企業であり続けるという経営の軸――これらを、実現手段や技術が時代とともに進化しても、規律ある統制をもって守り続けていきます。
柔軟性と拡張性で前へ進み、規律で軸を貫く。この姿勢こそが、不確実性の高い時代における持続的成長の前提であると考えています。

「SUBARU 2025方針」と足元の業績

私は社長就任後の2023年8月、「新経営体制における方針(以下、新体制方針)」で「モノづくり革新」と「価値づくり」の二つを柱に掲げました。100年に一度の大変革期にあって、異業種からの参入も含めた競争はかつてないほど激化し、規模に頼らない独自の競争力を抜本から築き直さなければならない。同時に、新車販売の局面のみで稼ぐ構造には限界があり、お客様との長期的な関係そのものから価値を生み出していく構造への転換も問われている。私はこれらの経営課題に対し、「モノづくり革新」と「価値づくり」を別個の取り組みではなく、当社の経営資源と組織風土から見て必然性のある、相互につながった一体の戦略として、確信をもって推進してきました。
この3年間、社内では従来のプロセスと意識を変え、徹底的に柔軟性を追求してきました。現場を見て回るなかでも、開発・生産・販売などの各領域において、従来の枠を超えた連携が進み、潜在していた力が引き出されているという手応えを強く感じています。2025年11月には、こうした取り組みで得た手応えと外部環境の急速な変化を踏まえ、新体制方針を一段と発展させた「SUBARU 2025方針(以下、2025方針)」を発表しています。
当期の業績は、米国関税をはじめとする外部環境の影響を強く受け、足元では厳しい状況が続いています。先行きの不透明さは依然として高い水準にあると見ています。一方で、これまで進めてきた構造改革と価値創造の取り組みは確かな前進を見せており、次なる成長の基盤づくりは新たな段階に入りつつあります。
主戦場である米国では、競争環境は厳しさを増していますが、当社グループにはまだ伸ばせる余地が十分にあると見ています。既存ラインアップの競争力強化と、セグメント・年齢層・販売エリアの空白地帯を埋める商品拡充を着実に進めることで、米国マーケットシェア5%、さらにその先の成長余地を確実なものにしていきます。
電動化戦略については、引き続きバッテリー EV(BEV)をカーボンニュートラルの社会実現に向けた大きな解の一つと位置づけ、トヨタ自動車とのアライアンスによるBEV4車種の市場投入や、BEVの基盤技術開発を着実に進めています。一方、市場の普及ペースの見通しを踏まえ、自社開発BEVの投入時期を見直しました。これは、市場と技術の進化を冷静に見極めながら、判断のタイミングをぎりぎりまで引きつけるという「柔軟性」の体現です。これまでの開発で蓄積してきた技術資産があるからこそ、判断のタイミングを引きつけることで得られる時間を、商品の作り込みやバッテリー進化の見極め、原価競争力の強化にしっかりと活かしていけると考えています。

「モノづくり革新」

「モノづくり革新」を本気で推し進められるのは、当社が規模ではなく、現場との関係性に根ざした強さを持っているからだと、私は考えています。社長就任以降も、私が幾度となく現場を回ってあらためて確信したのは、「答えは現場にある」ということでした。一人ひとりの潜在能力は本当に高く、それが部門や機能を越えてつながると、これまでにない価値が次々と生まれてきます。私たちの規模だからこそ生み出せる機動力こそが、当社ならではの競争力の真の源泉です。
こうした強みが具体的なかたちで結実している象徴の1つが、国内矢島工場におけるBEVとICE車の混流生産ラインの立ち上げです。実際に現場で進められている各取り組みについて説明を受けた際、各工程で求められる水準の高さに驚かされました。既存設備・工程・スペースを最大限に活かしながらラインを再構築し、開発と生産が一体となって課題を乗り越えていく。そのプロセスは想定していた以上にダイナミックであり、当社が持つ潜在力の大きさをあらためて実感するものでした。
もう一つの象徴が、自社開発BEVへの挑戦を通じて確立した、これまでとはまったく異なるクルマづくりの手法です。日程を先に置かず、状況に応じて柔軟に対応しながら最短工数を追求する大部屋方式によるアジャイル開発に挑み、これまでの開発の常識を覆すスピードで素性のよい商品を形にすることができました。同時に、開発プロセスやデジタル活用、BEVに関わる多様な技術資産も生み出され、これらはICE車の開発にも還流され始めています。
技術の進化においても、私たちの考え方は一貫しています。ソフトウェアの重要性はますます高まっていますが、ソフトウェア単独でSUBARUの提供価値が語られるものではありません。本質はあくまでも「走る・曲がる・止まる」というハードの基本性能にあり、確固たるハードがあってこそ、ソフトウェアによってその価値を最大限に引き出すことができる。アイサイトはその考え方の結実であり、技術の積み上げの先にあるのは、お客様が人生の中で実感される「安心と愉しさ」という価値です。柔軟に新しい手法を取り入れながらも、この価値の本質を磨き続ける姿勢は、これからも決して変わることはありません。

「価値づくり」の進化

「価値づくり」の中心にあるのは、これまで積み上げてきたお客様との関係を長期にわたって深め続け、新車販売の瞬間にとどまらない価値を共に育てていくという考えです。当社は、新車のご購入からアフターサービス、そして次のご購入へと続くお客様との長期的な信頼の循環――「ロイヤリティループ」――をつくるという考え方のもと、ビジネスモデルの進化を図っています。商品を起点としながらも、お客様との関係そのもののなかで価値を創出していく。私は、この構造の強化こそが、これからの当社グループの競争力を左右する最も重要なテーマであると考えています。
この考え方は、組織のかたちにも反映しています。品質保証、カスタマーサービス、部品用品事業など、お客様との接点に関わる機能を統合し、2025年4月に「カスタマーファースト推進本部」を新設しました。問題への対応にとどまらず、お客様との接点をつなぎ、信頼を重ねながら新たな価値を生み出し続ける体制への進化であり、今後のビジネスモデルの中核となる取り組みです。
これを支えるのは、お客様体験を継続的に高めていくコネクテッドサービスなどの技術基盤の拡充と、共感に根ざしたブランドの磨き上げです。米国の販売子会社が販売店と一体となって展開する「Love Promise ®」のように、地域社会との共感を育む取り組みの輪をグローバルに広げていく。商品とお客様体験、そしてブランドのすべてを一貫した姿勢で磨き続けることが、SUBARUらしい「価値づくり」の核心であると考えています。お客様との関係そのものから価値を生み出し、その輪を世界へ広げていく――この拡張性こそが、次なる成長を形づくる原動力です。

成長を支える「人財」と「組織」の力

成長戦略を着実に実行するうえで、最も重要な基盤は「人財」です。現場で価値を生み出す一人ひとりの潜在能力を引き出し、自律的な挑戦を後押しすることで、組織全体の実行力を高めていきます。当期は、役員から部・課・個人にいたるまで、それぞれの目標を企業業績と連動させ、一人ひとりの取り組みが事業成果に確かにつながる仕組みを強化しました。また、経営課題を横断的に担うCXO体制を順次拡充し、部門の壁を越えて意思決定と実行をつなぐ役割を厚くしています。多様な経験や視点を持つ人財が力を発揮し、それぞれの力を組織として結び付け、より大きな力を創出することで、変化の激しい事業環境に対応し続けることのできる組織基盤の強化を進めていきます。併せて、人財と組織の力をさらに高め、最大化していくためには、DXやITの推進も重要であると考えています。業務の高度化・効率化を通じて、従業員一人ひとりがより高い付加価値を創出できる環境整備も進めていきます。

規律ある統制 ― ガバナンスとリスクマネジメント

柔軟性と拡張性で前に進む取り組みが、場当たり的な判断に流れず、確かな価値創造につながるよう、それを律するのがガバナンスとリスクマネジメントの仕組みです。当社では、変化のスピードに即した意思決定と監督機能の高度化の両立を企図し、当期より監査等委員会設置会社へ移行しました。執行への権限委譲を進める一方で、取締役会は重要テーマの議論に集中する体制へと舵を切り、監督と執行の役割をより明確に分けています。社外取締役による現場視察や、SUBARUらしい経営のあり方をめぐる率直な対話に加え、株主・投資家の皆様との建設的なエンゲージメントから得られた示唆を取締役会の議論にしっかりと反映させていくことで、取締役会の実効性を一層高めてまいります。
リスクマネジメントについては、当社の機動力を活かし、不確実性が高い局面ほど意思決定を可能な限り引きつけ、リスクを見極めたうえで判断することを徹底しています。規模の拡大そのものを目的とせず、収益性と質を重視する経営姿勢は、それ自体が強力なリスクヘッジとして機能しています。また、監査等委員会設置会社への移行と歩調を合わせ、執行側のガバナンス体制も一段と強化しました。秘書室に属するコーポレートガバナンス推進機能とリスクマネジメント・コンプライアンス機能を統合し、2026年6月に「ガバナンス・リスクマネジメント部」を新設しています。リスクとガバナンスを横断的・一体的に捉え、領域間の仕切りを取り払うことで、変化への即応性と統制の実効性を同時に高めていきます。
規律ある統制は、一度仕組みを作って終わるものではなく、環境変化に合わせて深化させていく経営の営みです。不確実性の高い時代だからこそ、こうした不断の見直しこそが、柔軟性と拡張性を支える礎になると考えています。

持続的な企業価値の向上に向けて

価値創造の取り組みを、企業価値の持続的な向上へとつなげていく。その実現に向けて、「財務健全性と安定性の実現」「成長投資」「株主還元」のバランスのとれた資本配分を基本としながら、中長期的な資本効率の向上を追求してまいります。近年、「資本コストや株価を意識した経営」への関心が高まるなか、私自身、株主・投資家の皆様との対話を通じて、資本効率の向上に寄せられるご期待を強く感じてきました。当期は、その実効性を一層高める観点から、資本政策の一部を見直しています。規模の拡大を目的とせず、当社ならではの強みを磨き込みながら収益性を重視し取り組んでいくことで、業界高位の収益力の確保に向けて着実に歩みを進めてまいります。
健全な財務基盤を維持しながら、過度なキャッシュの積み上がりは抑制し、的確に資本を配分していく。とりわけ成長投資については、事業環境の変化を冷静に見極めたうえで、規律をもって、機動的かつ柔軟に見直していくことが重要だと考えています。自社開発BEVの量産時期の見直しに合わせ、これまで蓄積してきた開発リソースを次世代のICEやHEV商品へと再配分していく判断は、その一例です。
株主還元については、DOEに基づく配当を基本としつつ、業績や市場環境に応じた機動的な施策を組み合わせ、株主・投資家の皆様のご期待に応えてまいります。こうした考えのもと、当期は1,500億円を上限とする自己株式の取得および消却を決定いたしました。資本効率の向上と価値創造を両立させ、中長期的な企業価値を高めていく。その歩みを、株主・投資家の皆様との対話を通じて確かなものにしていきます。

ステークホルダーの皆様へ

私たちは今、「ひとつのSUBARU」という考え方を、これまで以上に強く意識しています。開発・生産・販売をはじめとする部門や地域の壁を越えて力を結集し、価値創造に取り組む風土は、着実に根付きつつあります。お客様、販売店、お取引先様、地域社会、従業員、そして株主・投資家の皆様など、SUBARUを通じてつながるすべての方々との関係の中で価値を育てていく。この一体感こそが、これからの成長を支える基盤です。
「2025方針」において掲げた「思いやりのある社会の実現」も、この「ひとつのSUBARU」の考え方をさらに進化させることで、実現していきます。事業そのものを通じて社会に貢献していく考え方は、当社グループの中で着実に浸透し、日々の業務や意思決定に織り込まれつつあります。クルマをご利用でない方にとっても「SUBARUブランドはいいね」と感じていただける関係性を育てていくこと自体が、価値創造の一部であると考えています。
これまで進めてきた構造改革と価値創造の取り組みは、着実に成果として表れ始めています。先行きの不透明感が続くなかにあっても、私たちは、現場で生まれる知恵と挑戦を原動力に、柔軟性と拡張性で前へ進み、規律で軸を貫く経営のもと、当社ならではの強みをさらに磨き込み、次なる成長に向けた基盤を一段と強固にしてまいります。ステークホルダーの皆様のご期待に応えながら、中長期的な企業価値の向上と持続的な価値創造に向き合ってまいります。