SUBARUびと Vol.43

世界初!「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」開発の舞台裏

2026年5月28日(木)

クルマ / 技術 / 安全
モノづくり サステナビリティ
* 記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています

仕事は違っても、「笑顔をつくる」という想いでつながる「SUBARUびと」。 様々な部署で働く「SUBARUびと」を、仕事内容や職場の雰囲気を交えてご紹介します。
SUBARUは、JNCAP「自動車安全性能2025 ファイブスター大賞」を受賞 ※1したフォレスターに、世界で初めて「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」 ※2を採用しました。
通常期間のわずか3分の1という、短期間での新技術採用を実現。その背景には、「死亡交通事故ゼロ実現に貢献したい」という強い想いと、部門や立場を超えた連携がありました。
お取引先様を含む多くの関係者と丁寧な対話を重ねながら、柔軟な発想で技術開発を進めた結果として生まれた、世界初採用の安全技術です。
今回は、この「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」の開発に携わった3人に、開発の経緯や安全への想いを聞きました。

  • ※1 2026年5月28日「SUBARU 「フォレスター」 JNCAP『自動車安全性能2025 ファイブスター大賞』を受賞」
    https://www.subaru.co.jp/news/2026_05_28_153707
  • ※2 車両との衝突時に、歩行者だけでなくサイクリスト(自転車乗員)の頭部保護にも対応するエアバッグ
相内 勇人 あいうち はやと

車両安全開発部

2001年に入社。車両研究実験第二部、北海道スバル(株)出向、トヨタ自動車(株)出向を経て、2026年より現職。入社以来、主に歩行者保護性能の開発および先行開発に従事。サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ開発においては、開発のとりまとめを担当した。好きな食べ物はラーメン、趣味はキャンプ、バイク。

石橋 一成 いしばし かずしげ

E&Cシステム開発部

2016年にキャリア入社。前職では、自動車メーカーで内装やエアバッグの設計開発を経験。SUBARUに入社後は、一貫してエアバッグの設計開発に従事。サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ開発においては、設計を担当した。趣味はスポーツ観戦、旅行。

澤田 大輔 さわだ だいすけ

ボディユニット設計部

2013年に入社。外装設計部、内外装設計部を経て、2025年より現職。入社以来、主に外装樹脂部品の設計開発に従事。サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ開発においては、エアバッグ周辺のカウルパネルなどの設計を担当した。趣味は旅行、Bリーグ観戦。クラシックカーが好き。

左から澤田大輔さん、相内勇人さん、石橋一成さん。
「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」の実寸模型と。
サイクリスト対応歩行者保護エアバッグの展開イメージ

短期間での新技術採用、難題への挑戦が始まる

──フォレスターに採用した「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」について、皆さんの担当された業務と開発の経緯を教えてください。

相内

私は開発のとりまとめを担当しました。自転車に乗っている場合、歩行者よりも頭部の位置が高くなります。そのため、交通事故の際、硬いAピラー ※3に頭部が衝突し、致命傷につながりやすいことが統計からわかっていました。そこで、従来の「歩行者保護エアバッグ」の展開範囲を車両後方へ400ミリメートル拡大し、よりAピラーの高い位置まで覆えるようにしたのが、今回フォレスターに採用した「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」です。
実は、サイクリスト対応歩行者保護エアバッグの技術的な目途がつき「フォレスターに採用したい」と社内に提案したときは、すでに設計図完成まで残りわずかのタイミングで、簡単に受け入れてもらえる状況ではありませんでした。通常の3分の1の期間で必要な試験等をクリアする必要があったので、無理もありません。そこで、難色を示す関係者一人ひとりのもとへ説明に回るところからスタートしました。

石橋

私はエアバッグの設計担当です。もともと、フォレスターには従来の歩行者保護エアバッグを採用する方向で開発を進めていました。あのタイミングで相内さんから「サイクリスト対応に変えたいです」と言われたときは、「今から!? 絶対に無理だ!」と思ったのを覚えています(笑)

澤田

私は車両側、エアバッグ周辺のカウルパネル ※4を中心に設計を担当しました。石橋さんと同じく、「このタイミングでそんな大胆な切り替えを本当にやるのか」と驚きましたが、相内さんの熱意に押されましたね。

相内

受け入れてくれてありがとうございます(笑)。そうして何度も社内で説明を重ねた末に、フォレスターへの採用が決まりました。採用が決定してからは、 チームメンバー一人ひとりが開発を一気に加速させてくれて、頼もしかったです。

  • ※3 自動車のフロントガラス左右にある柱(フロントピラー)のこと。ルーフ(屋根)を支え、事故時に乗員を守る高い強度が求められる。
  • ※4 自動車のフロントガラス下端とボンネットの間に位置し、ワイパーの付け根を覆う部分。
従来の歩行者保護エアバッグから400ミリメートル拡大

お取引先様と二人三脚で品質を確保

──開発を進める中で、苦労したことや印象に残っていることを教えてください。

石橋

通常の3分の1という短期間で、エアバッグの品質を確保すること、そして従来に比べ大きくなったエアバッグを限られたスペースに収めることが大きな課題でした。これには エアバッグを製造していただくお取引先様の協力が不可欠で、社内の関連部署と調整し、エアバッグの品質確認の試験日程を見直すなどして開発時間を確保しながら、 二人三脚で進めていきました

相内

私は毎週お取引先様のもとへ通い、一緒に開発を進めました。エアバッグの長さを伸ばすと、エアバッグ展開直後に大きく揺れやすくなり、位置を安定させるのが難しくなります。形状やガスの流し方を少しずつ調整して、揺れが出ないようにチューニングしていきました。

石橋

エアバッグの折りたたみ方も工夫しました。折り方ひとつで動きが大きく変わります。試行錯誤の末、安定した展開と限られたスペースへの収納が両立できる折りたたみ方を見つけたときは、ほっとしました。

澤田

私が印象に残っているのは、設計図完成後、初めて行ったエアバッグの展開試験です。私は車両側の設計担当なので、普段はこのような試験に立ち会う機会が多くありません。今回は、設計を担当したカウルパネルなどの樹脂部品が、エアバッグ展開時に飛び散らないかを確認するため試験に立ち会いました。万が一飛び散ってしまうと、事故の際に二次被害を起こす可能性があるからです。

相内

温度条件も重要なポイントです。さまざまな条件で試験しました。エアバッグは外部環境にさらされるところに格納されていて、カウルパネルの樹脂は低温では割れやすく、高温では伸びやすくなります。真夏から寒冷地まで、あらゆる条件で安全に展開することをしっかり確認しました。

石橋

特に暑いとエアバッグを膨らませるガスが膨張し、展開する力が強くなります。周辺部品にダメージがないか、エアバッグ自体が破れないかという点にも注意しました。

サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ展開動画(大きい音が出ます)

1日でも早く死亡交通事故ゼロを実現したい

──開発を進める中で、苦労したことや印象に残っていることを教えてください。

相内

SUBARUは「安心と愉しさ」という提供価値のもと、「2030年死亡交通事故ゼロ」を目指して安全性能を進化させてきました。これは、乗車中の死亡事故だけでなく、SUBARU車との衝突による歩行者・サイクリストの死亡事故ゼロを目指すものです。
この考えのもと、私は長年、歩行者保護エアバッグの開発に取り組んできました。2016年に日本の自動車メーカーとして初めて歩行者保護エアバッグを採用したときから、サイクリスト向けエアバッグの構想があった一方で、ハードルの高い技術開発でもありました。早くクルマに実装して 死亡交通事故ゼロ実現に貢献したいという強い想いを持ちながら、地道に技術開発を続け、社内外のすべての関係者と一枚岩で取り組むことができたからこそ、「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」が実現できたと思います。

石橋

私は車内で展開するエアバッグの設計も担当しています。事故が起きたとき、最後に人を守ってくれるのはエアバッグだと実感しています。SUBARU車に乗っていただくお客様はもちろん、車外の人たちも守るためには、より多くの車種への採用が重要です。今後、国内はもちろん、世界へ広げていくためにも、コストを抑えつつより良い商品を目指して開発を続けたいと思っています。

 

また、2025年11月には、日本自動車殿堂イヤー賞である「2025~2026 日本自動車殿堂カーテクノロジーオブザイヤー」 ※5を受賞することができました。これまでの取り組みが評価され、とてもうれしかったです。お取引先様もオンラインで表彰式を見てくださり、一緒に喜びを分かち合えました。

澤田

今回の開発は「短期間でどう実現するか」という目標が定まった瞬間から、チームとして一体感を持って取り組めたと感じています。やると決まったらみんなでやり切る。その姿勢こそが、SUBARUの強みだと改めて感じました。

安全への想いを技術で形にする「SUBARUびと」。ぜひ、次回のコラムもご期待ください。

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