「従来の常識」を打ち破り、誰が乗っても速く・安心して乗りやすいシャシーを追求

「従来の常識」を打ち破り、
誰が乗っても速く・安心して乗り
やすいシャシーを追求

ボディ設計部│平井 啓太

記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています

スーパー耐久に挑むSUBARUの技術者たち。今回はマシンのシャシー・足回り開発を取りまとめている、ボディ設計部の平井 啓太(ひらい けいた)さんにインタビューしました。

通常業務では先行開発を担当しているということですが、スーパー耐久ではどのような領域を担当していますか?

普段はサスペンションを中心として、ボディ・シャシー領域の先行開発を行っていますが、スーパー耐久においてもドライバーや実験部隊からのフィードバックを取りまとめながら、シャシーや足回りの設計を担当しております。

そうすると似たような業務になるのでしょうか?

確かに領域としては似ていますが、やっていることは全く異なります。というのも、量産開発ではみんなスバルグローバルプラットフォーム(SGP)*1という既存のプラットフォームをベースに仕事をしていますが、スーパー耐久においてはその「量産の常識」や「従来の延長線」から外れたことにチャレンジしています。例えば普段はAWD*2を前提に設計していますが、レースで使用しているSUBARU BRZは後輪駆動ですので、「そもそも後輪駆動はどうあるべきだっけ?」といったことに立ち返ることが求められます。私は通常業務において電動車の足回りも担当しているのですが、パワーユニットがガソリンからモーターに変わることで、同様に「どうあるべきだっけ?」を考えることが大事になってきます。また、量産車では運動性能だけでなく乗り心地や騒音も気にする必要がありますが、スーパー耐久では運動性能に特化した取り組みができます。ですので、今まで乗り心地や騒音を理由に諦めていたことにトライ出来るようになる一方、自由度が高すぎて「どこから手を付けるべきか…」という悩みもありました。いずれにしても、経験のない未知の部分に挑戦できることにはとてもやりがいを感じています。

*1:「安心と愉しさ」を支えるSUBARUのコア技術。
SUBARUのクルマづくり(スバルグローバルプラットフォーム)
*2:All-Wheel Drive(全輪駆動)

すごく奥が深いですね…もう少し具体的に教えてください

例えばスーパー耐久で使用しているエンジンは、レース用に制御を変えて、レスポンスも出力もアップさせています。ですから駆動力がハイパワーかつ瞬時に伝わるようになっている分、量産車の延長線上にあるセットアップではクルマが暴れます。量産開発においてはそこまで過激な仕様にすることはないので、クルマはそもそも暴れません。従って、暴れることをいかに制御するか?は考える必要がないんです。モーターで駆動する電動車もそれに似ていて、トルクの出方がエンジンとは全く異なります。ですから、従来の常識で足回りを検討していては、しっかりとした安定性が出せないんです

そうしたことがレースの現場だと次から次へと課題が出てくるわけですね?

そうです。仮説構築と検証のサイクルを早く回す経験ができるのがこの活動の醍醐味ですね。昨シーズンはスーパー耐久参戦の初年度でしたので、腰を据えてじっくり検討できるほどの余裕がなく、手段先行の対処療法になってしまう場面もありました。ですから今シーズンは、「量産開発へのフィードバック」や「技術力の向上」といったことを強化していきたいですね。

なるほど。2022シーズンと比べて、特に手ごたえを感じているのはどのような部分ですか?

例えばコーナーの入口と出口を分けて考えた時、新たに投入したアイデアがコーナー入口では上手く働いているけど出口ではネガになっている…という状況を想像してください。2022シーズンでは、入口と出口の切り分けができず、アイデア自体を取り下げて全体がバランスできるところを探っていました。すると結果としては低いレベルでバランスさせることになりますから、タイムは伸びません。対して2023シーズンは、オフシーズンでの検証や走行データの解析力向上により、自分たちのアイデアにより自信を持てるようになってきました。その結果、今の仕様で出口が良くないのは想定通りで、そこを良くできる技術を次に投入すれば、入口の良さは活かしたままもっと良くできる…と考えられるようになりました。現象を正しくとらえ、前向きにアプローチすることで今シーズンはもっともっとマシンの限界を引き上げることに取り組みたいですね。

確かに2023シーズン開幕戦ではドライバー全員のタイムが接近しましたよね?

はい。2022シーズンはプロドライバーと社員ドライバーとで6%ほどのタイム差があったんですが、2023シーズン開幕戦では3%程度に縮まりました。これは我々が目指している「誰が乗っても速く、安心で乗りやすい」というクルマに一歩近づいた証拠だと思っています。

これはある意味、SUBARUが目指す「安心と愉しさ」「走りを極めれば安全なる」といったことにつながっていきそうですね。

まさにそうです。もっといいクルマづくりを目指す上で、技術的にはタイヤの使い方がカギだと思っています。レースではタイヤへの負荷が非常に大きいので、タイヤ性能だけに頼らず、シャシー性能・車体性能を高めて運動性能を向上させることを目指しています。また電動車のタイヤでは、運動性能以上に走行抵抗を抑えることの優先度が高まるため、タイヤ性能だけに頼らず運動性能を引き上げる取り組みは、ひいては次世代の量産車におけるSUBARUらしさにつながると考えています

次世代の量産車、レース活動、人の成長…となんだか凄く勢いを感じますね。

SUBARUのいいところは、やりたいことに挑戦できる風土だと思います。「自分がどれだけそれをやりたいのか」という本気度をしっかり説明できれば、周囲からの協力も得やすくなり、もっともっと愉しくなると思います。そんな前向きな場を提供してくれる会社がSUBARUですね。

平井 啓太

平井 啓太(ひらい けいた)

2013年入社。大学院では機械工学を専攻し、溶接や材料力学に関わる研究を行う一方で、大学自動車部に在籍しモータースポーツに触れる。入社後はサスペンション設計に従事し、その傍らで2017年からSDAインストラクターとしても活動。3年間のトヨタ自動車出向でbZ4X/ソルテラの共同開発に携わった後、現在はボディ&シャシー領域の先行開発全般を担当。

物腰柔らかく、丁寧に語ってくれた平井さんでした。レースを通じて切磋琢磨を続けるSUBARUのエンジニアたちの挑戦、次回のコラムもぜひご期待ください。

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