挑戦し続ける技術者たち 『魔改造の夜明け』で見えた技術追求への姿勢
挑戦し続ける技術者たち
『魔改造の夜明け』で見えた
技術追求への姿勢
記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています
仕事は違っても「笑顔をつくる」という想いでつながる「SUBARUびと」。今回は、エンジニアたちが日用品や家電製品を「魔改造」して怪物マシンに仕立て、そのアイデアやテクニックを競技形式で競うNHKの人気番組『魔改造の夜』のその後のストーリー。「スリッパ跳ばし」の夜会本番に射出式スリッパで挑んだSUBARUは、直前までもう1つのアイデア、「羽ばたき案」を開発していました。夜会終了後も「羽ばたき案」に挑戦し続けた水谷公一さん、畠山雄太さん、樋口光さんの3人に、技術追求の裏側について聞きました。
目次
写真左から、畠山さん、樋口さん、水谷さん
完成した羽ばたき式スリッパ「カサカサX」
2度の開発断念、
羽ばたき完成への強い想い
夜会本番に向けた魔改造期間中、羽ばたきの開発は紆余曲折あったと聞きました。
- 樋口:
-
実は、羽ばたきの開発は、魔改造期間中に2度断念しています。最初に断念した際、番組スタッフに「失敗しても構わないルールがあるのに、このままでいいんですか?」と問われました。
この言葉のおかげもあって、「やらないまま終わるのは絶対に嫌だ」と開発継続に対して腹をくくりました。スリッパチームのミーティングで開発継続を提案したときは反対されると思っていたのですが、むしろ「見たい」という声がいくつもあって背中を押されました。
- 水谷:
- 「失敗しても良いのに断念するのは、本気で挑んでいないのでは?」という問いかけは本質でしたね。
その後、最終的に「羽ばたき案を断念する」という決断が下された瞬間の気持ちを教えてください。
- 樋口:
- 「ついに来たか...」という感じでした。時間をかければ完成できる可能性もあったと思いますが、残された時間を踏まえると、決断のタイミングは来るだろうなと覚悟していました。
- 水谷:
- 悔しかったですね。羽ばたきチームは一生懸命にやっていましたし、その努力が報われなかったのは辛かったです。神様も意地悪だなと思いました。
本番に向けて、すぐにチームの勝利へ意識は切り替えられましたか?
- 畠山:
- はい、迷う時間もなく切り替えました。
- 樋口:
- 羽ばたき断念後は、チームで勝つことに全力を注ぎました。ただ、夜会本番でEプソン社が羽ばたき案を出してきたとき、どこかで「自分たちにもチャンスがあったのでは」という思いがあり、夜会が終わった瞬間に「これは続けなければ」と強く感じました。
- 水谷:
- 夜会が終わった瞬間、羽ばたきに使用する部品を買っていました(笑)。「開発を続ける」という選択肢しかなかったです。
夜会本番を終えた後も、挑戦を続ける決め手は何だったのでしょう?
- 樋口:
-
エンジニアとして、羽ばたきという技術を形にできなかったことが悔しかったからです。
そして、「羽ばたきを見たい」と言ってくれる仲間が想像以上に多くいたことも、モチベーションになりました。
- 畠山:
- 魔改造期間中に羽ばたきを断念した際、私は「一旦中断」という感覚で、夜会終了後に開発を続ける前提でした。30メートル*1跳ばすには連続的に動力を生み続ける構造が必要で、それを実現できるのは羽ばたきだけだと思っていました。だから、何としても挑戦したかったのです。
- 『魔改造の夜』で挑戦した「スリッパ跳ばし」の優勝条件
スリッパチーム座談会:https://www.subaru.co.jp/difference/subarubito/34/
技術の追求、仲間とともに
挑戦を続ける日々
夜会本番終了後、羽ばたきに挑戦し続けた期間はどんな状況だったのでしょう?
- 樋口:
- 苦しい時間が7割でした。うまくいかない日が多く、前に進めない感覚もありました。ただ、ときどき手応えのある飛び方をする瞬間があって、その瞬間にすごく救われました。当時の動画を見返すと、苦しい中にもみんなの笑顔が残っているんです。
- 畠山:
- 私は、楽しい気持ちが多かったですね。分からないことを追い求め続ける期間で、苦しい場面もありましたが、乗り越えたときの達成感は大きかったです。
- 水谷:
- 私は、苦しさと楽しさが半々くらいでした。ただ、羽ばたき開発期間中に、藤貫CTO*2をはじめとした皆さんに飛行を初めて見せたときの、あの驚いた顔は今でも鮮明に覚えています。皆さんに喜んでもらってうれしかったですし、開発をやり切る原動力になりました。
- 『魔改造の夜』では、プロジェクト代表(統括)としてチームを見守った
CTO・若手エンジニア座談会:https://www.subaru.co.jp/difference/subarubito/35/
- 樋口:
- 魔改造期間中に羽ばたきを断念する際、リーダーの阿部さんに「失敗って何だと思う?」と聞かれたとき、私は「諦めたときが失敗だ」と答えました。その気持ちに共感した、羽ばたき完成に対して同じ熱量を持った仲間がいたからこそ、挑戦を続けられたと思います。
SUBARUらしさが背中を
押した未知への挑戦
羽ばたき開発の挑戦を6カ月続けたことで、エンジニアとしてどんな変化や学びがありましたか?
- 樋口:
-
挑戦を通して強く感じたのは、「やってみること」の価値です。考えているだけでは何も前に進まない。やってみて、失敗して、またやってみる。羽ばたきの開発は、まさにその繰り返しでした。
そして、それを支えてくれたのがSUBARUの文化だと思います。部署や立場の壁を越えて「一緒に考えよう」と声をかけてくれる風土があります。今回も、部門や勤務地を超えて多くの人が自然に協力してくれたり、周囲が「羽ばたきを見たい」と言ってくれたりしました。みんなで“0から1”をつくる喜びを共有できることが、SUBARUらしさだと感じました。
- 畠山:
-
私の場合は「為せば成る」という言葉がすごく腑に落ちた挑戦でした。
羽ばたきは誰も正解を知らないテーマであるため毎日が未知との対話でしたが、仲間と一緒に知恵を出し合って形にしていくと、ちゃんと前に進めるんですよね。未知に挑むほど、世界が広がる感覚がありました。
そして何より、多くの人が本気で興味を持ってくれたのがうれしかったです。お披露目会本番では、役員の皆さんが子どものように目を輝かせて質問してくれて、「この会社は本当にモノづくりが好きな人ばかりなんだ」と実感しました。
私は、自分にしかつくれないものがあると信じています。だからこそ、羽ばたきの開発は、世の中にないものを生み出すことができるエンジニアの仕事が愉しいと思わせてくれる経験でした。
- 水谷:
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まず、諦めなければ必ず形になるということを再確認しました。羽ばたきは、本当に何度やっても飛ばない日が続いて心が折れそうになりましたが、その度に仲間が支えてくれました。誰か一人ではなく、みんなで前に進むことができました。
また、SUBARUには、「手を挙げれば挑戦できる」という文化がありますが、今回はそれを実感しました。どのような状況の中でも挑戦することを肯定してくれる職場って、実はなかなかないと思います。
エンジニアとしては、「自分がつくったもので誰かを喜ばせたい」という気持ちが原点です。その原点を大事にできる環境があるからこそ、今回の挑戦が続けられました。
最後に、6カ月間の挑戦を経て、皆さんが感じた「SUBARUらしさ」をひと言で教えてください。
- 樋口:
- 「使う人を想う文化」。技術は誰のためにあるかを、常に考えられる会社です。
- 畠山:
- 「モノづくりへの純粋な興味」。立場を越えて、みんながエンジニアの目をしていました。
- 水谷:
- 「挑戦を後押しする風土」。手を挙げる人を応援してくれる。それが、今回の羽ばたき開発を支えてくれました。
諦めずに挑戦を続け、羽ばたくスリッパをつくりあげた「SUBARUびと」。ぜひ、次回のコラムもご期待ください。
羽ばたき式スリッパ「カサカサX」徹底解説動画
水谷 公一(みずたに こういち)さん 技術本部 ADAS開発部
2012年に中途入社。電子商品設計部、先進安全設計部を経て、2025年より現職。電子商品設計部では、アイサイトのシステム設計を担当した。現在は、後退時ブレーキアシスト*3やマルチビューカメラ*4などのシステム設計の取りまとめを行っている。
畠山 雄太(はたけやま ゆうた)さん 技術本部 ADAS開発部
2015年に入社。電子技術部、E&Cシステム開発部に所属し、直噴ターボエンジンの電子制御設計の評価を担当した。2024年より現職で、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)におけるHMI*5の先行開発に従事している。
樋口 光(ひぐち ひかる)さん 技術本部 E&Cシステム開発部
2018年に入社。電子プラットフォーム設計部、E&Cシステム開発部に所属し、電子プラットフォームの将来構想に従事しながら、スーパー耐久に参戦するレース車両の電気/電装品全般の開発を担当した。2025年より現職で、ボディ制御の先行開発に従事している。