スリッパを魔改造し、最も遠くに跳ばすことを競う。スリッパは、生贄と同じ重さの60グラムまでに収めなければならないという難題が立ちはだかる。技術の限界を突破したスリッパは、どこまでも跳んでいく。
本ルールは解説するための独自の要約となっています。説明の簡素化のため、番組と異なるニュアンス・解釈の表現になっている場合があります。
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プロジェクト担当
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所属部署
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あなたにとって『魔改造の夜』プロジェクトとは
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阿部 幸一
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リーダー
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ADAS開発部
会社全体の活性化、こんなにすごいエンジニアが社内にたくさんいると改めて実感
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荒川 紀香
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試作機製作/PPT/ロゴデザイン
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デザイン部
短期間でモノづくりの辛さも愉しさも、モノが形になった感動も味わえる良い体験でした
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飯塚 堅
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試作機量産/本番機製作
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車両開発統括部
モノづくりの辛さと愉しさを改めて実感しました
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伊藤 健吾
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ヨコグシ/スリッパ軽量化
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車両環境開発部
SUBARUでのモノづくりの愉しさを実感しました
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岩本 智文
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空力設計サポート
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航空宇宙技術開発部
試行錯誤、チャレンジを楽しむ場
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上田 朋久
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ガス噴射機構の開発
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車両安全開発部
目標を形にするモノづくりの愉しさを学びました
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大木 巧
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飛行シナリオ設計/ガス噴射機構の開発
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航空宇宙技術開発部
自ら手を動かし、体験し、自分の言葉で伝えることの大事さを思い出す起点
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大谷 恭平
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羽ばたき/ロケットマイコン化
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ADAS開発部
超短期間でのモノづくり
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川合 真
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主翼形状検討/羽ばたきサポート
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ボディユニット設計部
セオリープラスアルファのアイデアとチャレンジを愉しむ場
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菊永 雄斗
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羽ばたき
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バッテリーシステム開発部
短期集中、超濃密開発
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黒田 一徳
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電気回路
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バッテリーシステム開発部
凹んだ時、うまくいかない時こそ、「手を動かす」「技術に触る」ことで見える景色がある
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小阪 望
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スリッパ軽量化
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ADAS開発部
モノづくりの難しさと達成した時の愉しさを改めて実感しました
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小谷 啓太
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試作機量産/本番機製作
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車両開発統括部
ゼロから形にするモノづくりの難しさと面白さを実感しました
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佐藤 輝征
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試作機量産/本番機製作
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車両開発統括部
短期間で目標に向かってゼロからつくる難しさと愉しさ
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芝尾 裕規
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飛行シナリオ設計/サポート
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航空宇宙技術開発部
自分の頭の中の引き出しの中身を総ざらいして課題と向き合う場
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下池 昌弥
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ガス射出部の検討・作成
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技術開発部
ゼロから新しいものを作る愉しさを実感しました
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薗田 由祐
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電気回路
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バッテリーシステム開発部
エンジニアの実力確認の場
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高橋 伸弥
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場所・モノの調達/調整
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技術管理部
SUBARU、自分自身としての挑戦
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田中 純
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スリッパ滑空姿勢検討/機体設計・製作
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ボディユニット設計部
新しいモノをゼロからつくる愉しさと、色々な知見をもったメンバーの力を合わせると期待以上の成果が出せる事に気付かされました
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千葉 健司
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試作機量産/本番機製作
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エンジニアリング情報管理部
モノをつくることの難しさと奥深さを実感しました
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中村 梨沙
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羽ばたき解析/スリッパ軽量化サポート
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材料研究部
自由な発想とチャレンジが歓迎される場
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野本 将大
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スリッパ軽量化
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車両開発統括部
なかなか経験できない事にチャレンジできる機会だったと思います
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秦 里帆
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ガス噴射機構の開発/三鷹試作窓口
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パワートレイン設計部
技術者としての創造力と探求心を最大限に発揮できる挑戦の場
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畠山 雄大
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羽ばたき/ロケットマイコン化
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ADAS開発部
諦めないこと、技術的限界にチャレンジすること
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早川 正翁
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撃鉄機構設計
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航空宇宙技術開発部
自動車と航空のシナジー効果をうまく発揮できたと思います
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樋口 光
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羽ばたき/ロケットマイコン化
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E&Cシステム開発部
技術的限界へのチャレンジ
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平林 大輔
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複合材準備
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航空宇宙技術開発部
皆が意見を出し合って協力
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藤井 勇斗
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焼き切り回路/ヨコグシ
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ADAS開発部
マジで楽しんどいエンジニアリングバトル
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藤川 和也
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構成部品の加工
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開発試作部
SUBARUの技術力(特に加工技術)の証明、自身の業務スキル向上
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前田 祥宏
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主翼形状/搭載レイアウト検討
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ボディユニット設計部
モノづくりの愉しさと難しさを非常に短期間で濃く味わえる活動
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水谷 公一
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羽ばたき/ロケットマイコン化
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ADAS開発部
SUBARUのモノづくり力の再認識
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宮川 治誉
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ガス噴射機構の開発
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ADAS開発部
チャレンジすることの大切さの再認識、一人ひとりの力を合わせればどんな高い壁であっても乗り越えられることの実感
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山川 大地
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ガス噴射機構の開発
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パワートレイン生産技術部
失敗の重要性や、挑戦する姿勢の価値を再認識する貴重な機会でした
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山口 萌
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羽ばたき/スリッパ軽量化
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バッテリーシステム開発部
先輩技術者の技術力の高さを実感、先輩に負けない技術者になりたいと思えた経験
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吉村 健佑
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ガス射出部・主翼形状検討サポート
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航空宇宙技術開発部
モノづくりするための基礎力と行動力、チーム力の大切さを再確認した場
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所属部署名は、『魔改造の夜』夜会当日時点の情報に基づいて記載しています
開発秘話 スリッパを30メートル跳ばせ!『魔改造の夜』第二夜に挑んだエンジニアが想いを語る座談会
NHKの人気番組『魔改造の夜』に挑んだ、スリッパチームの4人が激動の1カ月半を振り返ります。
- モンスター概要
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ブルーコメット
普段の生活で、何気なく履いているスリッパ。足元を快適に支えてくれる、生活に寄り添う存在。そのスリッパを、Sバルのエンジニアたちがモンスターに魔改造する。誰よりも遠くへ跳ばすために、一番星のように輝かせるために。走ることにも、跳ぶことにも、本気で向き合うSバルだからこそ実現できた技術。軽量化、空力設計、翼の形状、ガスロケットの噴射機構、そして使いやすさ。「人を中心としたモノづくり」にこだわってきたSバルにしかできない、誰にでも蹴りやすく、跳ばしやすいスリッパを目指した。
- 全高
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80mm
- 全幅
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255mm
- 全長
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280mm
- 重さ
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58.97g
- 動力
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CO2ボンベ
- Point 1 撃鉄機構~ガス噴射
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カートリッジ内に蓄えられたガスを、ジェット噴射による推力へと変換する機構。強度、軽量性、精度を両立した逸品。
カートリッジにはレールを固定。針付きストライカーがこのレール上をスライドし、ガス解放を担う。ストライカーと輪ゴムは糸により保持され、発射の瞬間を待機。
発射時、ニクロム線を糸で溶断(Point 3, 4)。輪ゴムの張力によってストライカーがレールを滑走し、針がカートリッジの蓋を貫通することで、ガスを開放する。開放されたガスは、針付きストライカーに設けられた同軸の貫通孔を通じて機体後方へ噴出し、推力となる。
- Point 2 針
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軽量化のため、加工可能な最小構造の針をステンレスで製作。ガス噴射機構に合わせて先端部を手加工で削り出し、トライ&エラーにより形状を決定した。
針の座面は平たくし,カートリッジに穴をあける際に針が転ばないように、ガス噴射機構との接合面を確保。また、ガス噴射経路の邪魔にならないよう、針先端には穴をあけ、スムーズにノズルへ流れるようガスの噴射通路を確保した。
- Point 3 ニクロム焼き切り機構
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一瞬で糸を焼き切ることができるように、抵抗値ごとの発熱量を計算し、最適なニクロム線抵抗値を割り出した。また、軽量かつ最大エネルギーを放出できるリチウムイオンキャパシタを採用。エネルギー量は、通常の電解二重層コンデンサの約2倍を実現。
限られたリチウムイオンキャパシタのエネルギーロスを少なくし、ニクロム線の発熱に対してエネルギーを使い切るために、電線長は最短にし、スイッチ等も低抵抗部品を厳選。また、ニクロム線を除く回路全体の抵抗は0.02オーム程度へ低減した。その結果、96%程度の電気効率を達成。
さらに、飛行安定性を確保するため、左右の重量バランスが均等になるよう、重量物のリチウムイオンキャパシタとスイッチを左右対称に配置した。
- Point 4 マイコンタイマー化
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ガス噴射のタイミング制御をより細かく行うため、キャパシタによる焼き切り回路(キャパシタ式)をマイコン化。誤射がないようにプログラムで発射シーケンスを設定し、特定の操作を行わないと発射しないようにした。
LEDインジゲーターの点滅で、発射タイミングをお知らせする。ボタンを長押しするとLEDが点滅し、カウントダウンを開始する設計となっている。
また、キャパシタ式とほぼ変わらない重さを実現するために、細部の調整を行った。軽量化のために絶縁材を使わず、歩行時に踏まれても短絡しない回路レイアウトとした。
さらに、電源を二重層電解コンデンサからリチウムポリマー電池に変更することで、電源の安定性や低い内部抵抗を実現。これによって、ニクロム線の昇温時間を短くした。
- Point 5 機体軽量化
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スリッパの下底はスポンジとEVAから、発泡倍率92倍の発泡スチロール単体に変更。自動車と航空機開発のノウハウを基に、履き心地を損なうことなく、ガス噴射の搭載スペースを確保しながら、重量・空気抵抗を抑えられる最適形状とした。また、中央にはスリットを設け、噴射ガスの圧力損失低減と軽量化を実現。中底はメッシュ素材を活かしつつ、クッション材を削減。また、ハカマは軽量化と固定翼装着の都合上削減したが、塗装で生贄品を再現した。
甲表と甲裏は、中底同様メッシュ素材を活かしつつ、クッション材を削減。変形や空気の剥離による空気抵抗の増加を抑制できる剛性・形状を、部品追加なく裁縫技術のみで実現。位置・サイズの工夫で軽量化と履きやすさ、蹴りやすさも追求した。
- Point 6 主翼、滑空機構
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翼のフレームは、軽量のバルサ材を採用。また、フィルムは軽量化の観点から熱溶着可能な熱収縮フィルムを採用し、Sバルを体現する色としてブルーを取り入れた。さらに、キッカーの蹴り出しやすさを考慮し、翼のY幅を280ミリメートルに設定。できる限り翼の面積を確保しつつ、蹴り出しモーション時に軸足と接触しない設計を実現した。
メインボディの材料は履き心地、軽さ、強度を両立できる発泡スチロールを採用。外形はスリッパと同サイズ、厚みはボンベの厚みをカバーできる20ミリメートルに設定した。また、空気抵抗を抑えるために、歩き心地を損なわない範囲で角を削り、船底形状とした。
重心位置は、蹴り出し時の機体姿勢安定化に影響が大きいため、トライ&エラーを繰り返し、揚力中心より前方とすることで最適化を実現。機体質量の半分以上を占めるガスユニットを、重心狙い位置に配置している。
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夜会の会場が30メートルなら、その限界を目指す。「誰でも跳ばせる」スリッパの開発が始まった。
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まずはチーム全員で議論する。チーム全員から溢れ出てくるアイデアの数に、苦労する場面も。
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試作開発に向けて出揃ったアイデアは、全部で5つ。魔改造期間残り2週間となるまで、すべての案の検討を進めていた。
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CO2ボンベを使ったガス射出案で仮説検証を繰り返す。30メートル跳ばすパワーを得るために試作を続ける。
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ガス噴射による射出案に次ぐ第2候補として、羽ばたき案の検証も並行して実施していく。
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ガスの温度や噴出口径、発射角を変えながら、試験を重ねる。
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初めての大飛行に興奮を押さえきれないメンバーたち。入念に映像を見直す。30メートル跳ばせるぞ!
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「誰でも跳ばせる」には何が必要か。全員がテストキッカーとなり、体感して、考える。
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羽ばたき案も諦めたくなかった。しかし重量、揚力、制御、耐力、部品調達など、30メートルの飛行シナリオを描くには壁が高く、夜会1週間前、断腸の思いで開発中止を決定した。
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ブランコとは対照的に、スリッパの開発はとにかく繊細な作業が多かった。黙々と集中して作業を進める。
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最後の壁が重量制限だった。各部品、削れる限界を追い求める。納品3日前、チーム全員の工夫が実り、急激に軽量化が進んだ。
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納品期限1時間前、突如として本番機に搭載予定だったストライカーが壊れてしまう。かつてない焦りの中、新しいストライカーを組み上げていく。
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重量制限が突破できない。その0.5グラムが、果てしなく“重い”。魔改造終了まで、残り15分。チーム全員が納品場所に集まり、知恵を絞る。
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魔改造終了30秒前の躍動感。チーム全員が全速力で頭と身体を動かしていた。
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度重なるアクシデントを乗り越え、生贄のアイデンティティ、履き心地、飛行性能、何一つ諦めることなく、誰でも跳ばせるブルーコメットが完成した。
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怒涛の納品を終えて感極まるリーダーに「早い早い」と総ツッコミしつつ、1カ月半を闘い切ったチームは安堵と自信が感じられる笑顔に満ちていた。
挑戦の先にーー
未知の世界を前に、
モノづくりの原点に立ち返った。
信じて跳び出したその先には、
築き上げた最高のチームワーク、
そして未来を切り拓く無限の可能性が
拡がっていた。