第三者意見

竹ケ原 啓介様

株式会社日本政策投資銀行
執行役員 産業調査本部副本部長 兼
経営企画部サステナビリティ経営室長


略歴

1989年一橋大学法学部卒業、同年日本開発銀行(現( 株)日本政策投資銀行)入行。フランクフルト首席駐在員、環境・CSR部長などを経て2017年よりサステナビリティ経営室長を兼務として現職。
DBJ環境格付融資の創設など環境金融分野の企画に長らく従事。現在、同行の産業調査活動を統括。環境省「中央環境審議会」臨時委員、経済産業省「TCFDコンソーシアム企画委員会」委員など公職多数。企業のCSRレポート第三者意見執筆やESG、SDGsに関する講演など。共著書に「再生可能エネルギーと新成長戦略」(エネルギーフォーラム2015年)、「気候変動リスクとどう向き合うか」(金融財政事情研究会 2014年)など。

中期経営ビジョン「STEP」2年目の活動を報告するCSRレポート2020の印象を一言で表現するならば、「着実な進歩」でしょう。まず、気がつくのが構成の変更です。本レポートでは、グループCSRを概観する導入パートと、各分野の取り組みを紹介するパートからなる2部構成が採用されました。前者では、事業を通して社会課題を解決し、社会とグループの持続可能性を追求するというトップメッセージに象徴される、CSRを事業戦略の一環として捉える姿勢が引き続き明確に打ち出されています。今回、特に印象的だったのは、「CSR重点6領域」をSDGsと関連づけることで、貴社が考えるマテリアリティの構造を分かりやすく示した点です。例えば、重点領域「安心」を、「安全機能の向上 」、「品質の確保・向上」、「安心な職場づくり」などの要素に分解して構造を示し、先進運転支援システム(ADAS)の高度化や25年ぶりに改訂された「品質方針」などの具体的な改善の取り組みで補足する説明は大変分かりやすいと思います。これをSDGsに接続したうえで、目指す姿として「2030年に死亡交通事故ゼロを目指す」というKPIを設定した点も、様々な安全技術による裏付けと相俟って優れたメッセージ性を備えています。
取り組みパートでは、大項目を環境、社会、ガバナンス(ESG)に分類してレイヤーを整えたうえ、記載内容も、考え方、体制、計画、取り組みという形に統一することで、膨大な情報量の体系化に成功しています。これにより、前回ご指摘させていただいた情報の重複が整理され、大変読みやすくなりました。また、付録を充実させ、統合報告書の性格を強めた点も構成上の工夫として注目すべきでしょう。
形式面に加え、今回特筆すべきは、具体的なコンテンツ面での進歩です。まず、環境面において、1.5℃シナリオを睨んだ長期展望が示されました。2050年度を目処に、事業活動で排出されるCO2をカーボンニュートラルにし、商品ではWell-to-Wheelで新車の平均(走行時)排出量を2010年比で90%以上削減するという長期目標に加え、これを補強する2030年に向けた電動化率などのマイルストーンが設定されました。昨年度の小稿を含め、多くのステークホルダーからの要請にしっかりと向き合った対応に敬意を表したいと思います。しかも、こうした飛躍をSUBARUのクルマづくりのDNAを堅持しつつ達成していくと表明している点が目を引きます。文字通り、貴社グループの技術力の見せ所であり、今後環境アクションプランの中でどう具体化されていくかが楽しみですし、この「SUBARUらしさ」こそ、今回のレポートの隠れた主題のように感じられます。
それは、今年度のもう一つの大きな進歩「人権方針」の制定にも当てはまります。人権は、貴社のCSRを国内単体中心からグループの実態に合わせてグローバルなものに転換するうえで避けて通れないテーマです。そこで、まずは国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく普遍的な方針が提示されますが、ややもすれば均質化しがちなこのレベルに留めることなく、「人」を中心に据えたモノ作りを実践してきた「SUBARUらしさ」を追求し、付属書としてまとめあげたことは今回のハイライトの一つです。
これらの成果に顕著ですが、小稿の作成過程で貴社と対話する中で強く感じられたのが、ステークホルダーとしての従業員のエンゲージメントを徹底して追求する姿勢です。見せ方は難しいですが、様々な職種、国籍の従業員を巻き込むべく努力を重ねている姿勢もまた、貴社らしさとして対外的に示していくべき強みといえるでしょう。

総じて、構成、内容ともにコミュニケーションツールとして着実な進歩を遂げ、貴社のCSRの変化を随所に感じさせてくれるレポートに仕上がっていると思います。次年度のレポートに向けて期待したい点も、自ずとこの延長線上に位置づけられます。まず、CSR体系の整理をもう一段進めて頂きたいと思います。今回、「SUBARUグローバルサステナビリティ方針」が新たに加わり、貴社のCSRの方向性がより鮮明になりました。これを既存の枠組みの中にしっかりと位置づけて新たな体系となし、一本のストーリーとして全編を貫徹させることが期待されます。また、SDGsと接続させた重点6領域に設定したKPIの妥当性についても「貴社の強みを示すうえで有効か」という観点からの検証をお願いしたいところです。例えば、人を中心とした自動車文化のKPIとしてお客様満足度調査の継続実施は妥当でしょうか。最後に、従業員との緊密なコミュニケーションを対外的に訴求するためにも、貴社の考える人的資本や人材戦略などに関する情報の一層の充実を期待します。昨年同様、「SUBARUらしさ」を一層体現される着実な進歩を楽しみにしております。